加齢黄斑変性の診断を受けたとき、自動車の運転はどうなるの?という疑問が真っ先に心に浮かんだ人も多いでしょう。日常生活で車をまったく使わない、という場合を除き、否が応でも向き合わなくてはいけない問題です。特に車がないと生活できない、仕事にならないという人にとっては慎重に考える必要があります。
ここでは、患者さんアンケートの結果などを踏まえながら、加齢黄斑変性と自動車運転について考えていきます。
自動車の運転、他の人はどうしている?
「見たいところが見えない」「視野の中心が暗い」「ゆがんで見える」「ぼやけて見える」という加齢黄斑変性の症状は、自動車の運転に影響を与えてしまいます。
実際に、加齢黄斑変性の患者さんを対象としたアンケート*では、
「運転がこわい」
「信号機の色がわからない」
「電光掲示板が見にくい」
「運転中に標識を認識しにくい」
という声が寄せられました。
このことから、自動車の運転を断念した、免許を自主返納したという方々もいます。代わりに家族に運転してもらう、自転車に乗る、公共の交通機関を利用するといった手段に切り替えているようです。
なかには「車の運転を代わりにしてもらったときは、感謝の言葉を伝えたり、お礼をしたりするようになった」という回答もありました。家族や周囲の人への感謝を忘れないことも、大事なポイントですね。
一方、普通第一種運転免許の視力の合格基準は「両眼で0.7以上、かつ、一眼でそれぞれ0.3以上、又は一眼の視力が0.3に満たない方、若しくは一眼が見えない方については、他眼の視野が左右150度以上で、視力が0.7以上であること」です1)。
加齢黄斑変性が片目だけなどで、この基準をクリアできてしまう人もいます2)。
加齢黄斑変性で運転を続けている方の多くが、視界の中心部分が見にくいことやゆがんで見えることを認識されており2)、実際、患者アンケートでも、
「運転回数を減らした」
「夕日がまぶしい時間に運転しない」
「暗い場所では気をつける」
「目が疲れないようにする」
といった回答がありました。
この他にも、夜間やラッシュアワー、不慣れな場所の運転を避けるといった対処をする人が多いようです2)。
このように、視覚障害がある場合は、運転者ご本人が自らの状態を正しく認識し、それに応じた対処をする必要がありますが3)、現在の免許制度では、両目で0.7以上ある場合は視野検査を行いません。つまり、視野の欠損には気づきにくいのです。また、どの部分が欠損していることでどのような事故が起こりやすいかも変わってきます(上部に欠損がる場合は、信号を見落としやすい、下部に欠損がある場合は、飛び出しに気づきにくい、など)。対処は症状によって変わってくるため、「免許が取れたからOK」ではなく、定期的に眼科で検査を行い、運転の可否について必要なアドバイスをもらうことが事故を防ぐことにつながります。
加齢黄斑変性患者さんの自動車運転の特徴
仮に注意深く運転していても、加齢黄斑変性の患者さんが自動車運転をすることには、少なからず危険が伴います。
海外での研究によると、加齢黄斑変性がある人の運転は、目の病気がない人と比較して下記のような特徴があることが報告されています2)。
・ブレーキのタイミングが遅れる
・スピードが遅い
・不必要な車線変更が多い
・車線コントロールが劣る
・歩行者に対する注意力が劣る
やはり、以前と同様の自動車運転はしにくくなっているという現実があります。
自動車を運転しない暮らしのメリットとは
自動車を運転する以上は、目の病気があっても、そうでない人と同等の注意義務が課せられます。特に加齢黄斑変性のように症状を自覚できる病気では、注意義務違反があった場合にはより重い責任を問われる可能性があります3)。
加齢黄斑変性を発症した場合は可能な限り、自動車運転を控えるようにしたいものです。
自動車を運転しない生活なら、事故を起こすことはもちろん、スピード違反や駐車違反を起こしたり、近年問題になっているあおり運転に巻き込まれたりする心配がなくなります。ガソリン代などの維持費も節約でき、ほかのことに使うことができるなどのメリットもあります。
さらに運転免許を自主返納することで、各種の特典(例:タクシー料金や自転車購入時の割引など)が受けられます。どんな特典が受けられるのかは都道府県ごとに異なります。一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会のウェブサイト4)で詳細が確認できます。
また、令和元年の道路交通法改正により、運転免許を返納した人も「運転経歴証明書」の交付申請ができるようになりました。これは公的な本人確認書類として使うことができます5)。

この機会に、誰しもいずれは迎える、自動車の運転をしない生活について、改めて検討してみてはいかがでしょうか。
監修:ひきち眼科 院長 引地泰一先生
*アンケート調査概要
- 実施責任者:株式会社QLife
- 調査目的:加齢黄斑変性症に関する患者の理解、情報提供体制や日常生活についての実態を探る
- 調査手法:Webアンケート調査
- 調査期間:2020年11月2~6日
- 調査対象者:QLife会員かつ加齢黄斑変性症の診断・検査を受けた患者
- 有効回答数:109
- 警視庁:適性試験の合格基準
https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/annai/other/tekisei03.html [2021年12月1日アクセス] - 大島裕司:加齢黄斑変性と自動車運転, OCULISTA, 2017, 49, 53-60
- 馬塲美年子ほか:眼科領域の疾患・症状を有する運転者の自動車事故事例の検討─本邦刑事判例からみた運転者の注意義務と問題点について─. Journal of the Japanese Council of Traffic Science, 2018, 18, 15-23
- 一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会:運転免許証の自主返納をお考えの方へ 〜各種特典のご案内〜 http://www.zensiren.or.jp/kourei/return/relist.html [2021年12月1日アクセス]
- 警察庁:運転経歴証明書について
https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/career_certificate.html [2021年12月1日アクセス]
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