加齢黄斑変性の患者さんとご家族が笑顔で暮らすためのヒント

加齢黄斑変性は、かつては治療方法のない病気でした。
現在では、医学の進歩により病態の進行を抑えて視力を維持・改善する治療ができるようになりました。しかし、まだダメージを受けた部分を元通りにすることはできません。治療や経過観察を続けながら、加齢黄斑変性とうまく付き合っていく必要があります。

それは、加齢黄斑変性の患者さん本人だけでなく、ご家族も同じです。生活を共にする家族は、どんな見え方の変化があるのかを想像し、困りごとを察知しながら、できる限りのサポートをしようとしてくれているのではないでしょうか。

しかし、どんなときに困難を感じるのか、どのようなサポートがあれば助かるのかは本人にしかわからないものです。してほしいことをうまく家族や周囲の人に伝えられずに、もどかしい思いをすることもあるでしょう。

ここでは加齢黄斑変性の先輩患者さんのお話を踏まえ、みんなが笑顔で暮らすためのポイントを3つご紹介します。

前向きな姿勢の源は、チャレンジ精神

2013年に加齢黄斑変性(滲出型、右目)と診断された、原田朝子さん(仮名)。

原田さんは目の健診を定期的に受けており、加齢黄斑変性を早期に発見できたこともあって、診断当時は問題なく見えていたそうです。それから治療を続けていましたが、右目の病状が進行し、左目も悪くなってきました。今見えるのは足元の周囲5mほど、手元はよく見えない状態だそうです。料理などの家事がしにくくなり、以前の趣味(囲碁、洋裁)も諦めざるを得なくなりました。

診断当初、原田さんの娘さんは、目がだんだん見えなくなってくることで精神的に落ち込んでしまい、うつ病や認知症になってしまうのでは、と心配していたそうです。

しかし、原田さんは工夫をしつつ、今も3日に1回はひとりででも近所のスーパーなどへ外出するようにしているそうです。

原田さん

「身体を鍛えなくちゃいけないし、閉じこもっているのは性に合わない」
「ただし夕方は見えづらいので、昼間に出かけるようにしています」
「目が悪くても、耳は健康。できなくなってしまった趣味もありますが、もともと音楽も好きだったので、今はラジオで楽しんでいます」

さらに、原田さんは自分でできることをできるだけ維持するよう努めています。
例えば、娘さんが付き添って外出した際は、自分ひとりで来るときのために、「この駅はどこが混みやすいのか」「どこを歩けばスムーズに移動できるか」といったことを復習しながら歩くようにしているそうです。

行動力と前向きな姿勢は、「囲碁で培ったチャレンジ精神」によるものだと、原田さんは語ります。さらに、原田さんの姿勢は、サポートをつとめる娘さんにも前向きな影響を与えているようです。

「具体的に」伝える工夫をする

目の病気になって、生活に差し障りが出るようになったという事実は、本人はもちろんのこと、家族にとってもショックなものです。どんな見え方になっているのか、何をしてあげるべきなのか、今後はどうなるのか…書籍やネットなどで情報収集しても、不安は続くことでしょう。

原田さんの娘さんは少し離れて暮らしていましたが、加齢黄斑変性と診断された当時、まだ目が見えていた頃から、仕事の都合をつけて頻繁に訪れるようになりました。
一緒に生活する中で「どんな暮らしぶりなのか」「何が見えにくいのか」を把握しておけば、もし症状が進んでしまってからもサポートしやすくなると考えたからでした。そのなかで役立ったのが記録でした。

娘さん

「母はもともと、細々と記録をつけることが好きでした」
「これまでの記録があったので、母の暮らしぶりが把握しやすかったです」

こうして娘さんは生活のなかで試行錯誤を重ね、食事は大皿に盛らない、外食したときはお皿に何が載っているのか伝える、小さな字は読み上げる、事務的な作業は代筆・代行する、買い置きするときはお湯を入れるだけ/温めるだけでよいインスタント食品や、骨が取ってあって食べやすいレトルト食品などを選ぶなど、症状に応じたサポートができるようになったそうです。

加齢黄斑変性の症状は、本人以外にはイメージしにくいものです。何が見えて、何が見えていないのか、なかなかピンときません。ですから、サポートをお願いするときは、何をしてほしいかを具体的に伝えることがポイントとなるでしょう。

このような工夫を実践されている人は多くいるようです。加齢黄斑変性の患者さんを対象としたアンケート*でも、

「雨の日の外出や受診などは、家族に付き添いをお願いしている」
「車の運転は家族にお願いするようになった」
「テーブルから物を落とすことが多くなったが、どこに落ちたかわからない。家族に頼んで探してもらっている」
「ゴルフで自分の打ったボールを他の人に見てもらっている」

といった声が寄せられました。

何かをお願いするときは「○○の部分が見えないから、△△してほしい」というように伝えるようにするとよさそうです。例えばこのような伝え方です。

「夕方になると色が分かりにくくなるんだ。信号機の色を教えて」
「テーブルの上に塩があるはずだけど、どこかな。ここに一振りしてちょうだい」
「それだと見えないから、もっと大きな字で書いてください」

できないこと・してほしいことを具体的に伝えていくことで、家族や周囲の人の理解も深まり、よりよい対応のきっかけになるでしょう。
とはいっても、日常的にできないこと、してほしいことを覚えておくのは難しいものです。原田さんのように記録やメモ(音声、文字)を活用するのも、ひとつの手段です。

感謝の気持ちが相手の気持ちにも影響を与える

原田さんは現在、献身的な娘さんのサポートを得ることができています。しかし、娘さんもずっと一緒にいられるわけではありません。

原田さん

「娘にも娘の家族や生活があるので、大変です」
「こちらに来るための交通費や駐車料金は負担するようにしています」
「ありがとうと言葉で感謝を伝えています」

こういった配慮や感謝はとても大切なことです。むしろ家族だからこそ、と言えるかもしれません。 前出のアンケート*でも、「車の運転を代わりにしてもらったときは、感謝の言葉を伝えたり、お礼をしたりするようになった」という回答がありました。

加齢黄斑変性の患者さんに限らず、誰もが暮らしの中で、家族や周囲の人のサポートを必要とするときがあります。「人に迷惑をかけたくない」「申し訳ない」と考えてしまいがちですが、感謝を伝えれば、多くの人は快くサポートをしてくれるということを心に留めておきましょう。

誰かを手助けし、感謝される。実はこのやりとりは、感謝した側はもちろん、感謝された側の心にも社会的に前向きな影響を与えることが研究でも明らかになっています1)。そのためには、相手にわかるように感謝を伝えることが大切です。

周りにサポートをお願いする際は、今回紹介した、

①何をしてほしいか具体的に伝える
②必ず感謝を声に出して伝える

の2つのポイントを思い出してみてください。

病気を抱え、いつも前向きな気分でいることは難しいかもしれません。しかし、加齢黄斑変性は長い付き合いになってしまう病気です。周りの人にサポートをお願いしつつ、視点を少し変えて新たな楽しみや喜びを見つけること、好きなことからできそうなことを探し少しずつ広げていく、そんな工夫で病気と向き合ってみてはいかがでしょうか。

*アンケート調査概要

  • 実施責任者:株式会社QLife
  • 調査目的:加齢黄斑変性症に関する患者の理解、情報提供体制や日常生活についての実態を探る
  • 調査手法:Webアンケート調査
  • 調査期間:2020年11月2~6日
  • 調査対象者:QLife会員かつ加齢黄斑変性症の診断・検査を受けた患者
  • 有効回答数:109
  • 蔵永瞳ほか:心理学研究, 2018, 89(1), 40-49

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