加齢黄斑変性は「治療」と「予防」の両輪で心が楽になる

加齢黄斑変性で多くの診療実績のある眼科専門医の安川 力先生が現在力を入れているのは、加齢黄斑変性を発症した後の「治療」と同時に行う「予防」です。診断後は、加齢黄斑変性の症状が出ている目の治療に注意がいきがちですが、生活の質を下げないためにも、また、ご自身の心を守るためにも、症状の出ていないもう片方の目の発症を予防することが重要です。予防を重視する理由と具体的な方法について、安川先生にお伺いします。

安川 力(やすかわ つとむ)先生
名古屋市立大学大学院医学系研究科視覚科学分野 教授
眼科専門医。医学博士(京都大学)。日本網膜硝子体学会 理事、日本眼科学会 評議員、日本眼科AI学会 評議員、日本眼薬理学会 評議員を務める。加齢黄斑変性を含む網膜硝子体疾患を専門とするエキスパート。


――多くの診療実績を持つ安川先生が、「ミルエル」をご覧の加齢黄斑変性患者さんやご家族に一番お伝えしたいことは。

加齢黄斑変性で最も重要なのは「早期発見・早期治療」ですが、それと同じくらい大切なのが「予防」です。私は現在、加齢黄斑変性の「予防」にもっと注目していただくための活動をしており、「ミルエル」をご覧の方にもぜひそのことをお伝えしたいと思います。

加齢黄斑変性には大きな特徴があります。それは「まず片目から発症し、その後にもう片方の目にも発症する」場合が多いということです。両目が悪くなってしまうと生活に大きな支障が生じますが、片目だけなら車の運転を続けられることが多いですし、そこまで生活の質は下がりません。極端に言えば、片目がよい状態ならある程度の生活には困らないのです。

――加齢黄斑変性は発症した片目の治療だけでなく、発症していない片目の予防をすることも大切なのですね。

患者さんの中には治療に意識を向けすぎて、もう片目の予防をおろそかにしてしまっている人がいます。しかし、将来を考えれば、症状のない片目をいかに守るかということも大切です。予防は、治療と同等以上に重要なのです。

予防はまた、目を守るだけでなく、心を守ることにもつながります。加齢黄斑変性の治療はよく効く場合もあれば、残念ながらあまり効かない場合もあります。また、治療の効果が得られている方でも、5~10年経つと加齢による黄斑の萎縮の影響で、視力が落ちてくることがあります。治療している片目のことばかり気にしていると、治療がうまくいかないときに大きなストレスを感じてしまいます。

もし片目が悪くなってしまったとしても、もう片方の目の健康が維持できていれば、不安やストレスが軽減するでしょう。また、予防を通じて加齢黄斑変性が難しい病気であることを理解しやすくなり、目が悪くなることを受け止める心の準備ができる側面もあります。

60~70代から予防に積極的に取り組み、80代になっても片方の目はよい状態を保つことを目指していただきたいです。

――加齢黄斑変性を予防するには何をすればよいのでしょうか。

科学的な根拠(エビデンス)のある予防法は「禁煙」と「サプリメント」です。

喫煙していない人と比較して、喫煙者は加齢黄斑変性に3〜4倍なりやすいことや、禁煙を10年間続けると発症リスクは半分になることが報告されています1)。すぐには効果が出にくいですが、80代まで症状のない片目をよい状態で保っておくためには、なるべく早く禁煙することが賢明です。どうしてもタバコを止めたくない人には、せめてサプリメントを飲んでほしいとお話ししています。

サプリメントについては、さまざまなものが市販されています。その中でも科学的に最も高い有効性が認められた組み合わせは抗酸化作用のあるビタミン C 、ビタミンE、 亜鉛、ルテインの4種であり、摂取することで4人に1人は発症が抑制できたというデータがあります2)。これらにDHA やEPAを上乗せしてもあまり効果は強まりませんでした2)が、普段から魚を食べない人なら追加して摂ってもいいかもしれません。ポリフェノール(ブルーベリーなど)はエビデンスが乏しいものの、理論上はよいと思われるので、飲むのをあえて止めはしません。この他の成分については根拠が明確でないものもありますし、過剰摂取するとよくない場合があるので、医師や薬剤師に相談してから飲んでいただいた方がよいでしょう。

太陽光や白内障手術も加齢黄斑変性のリスクになると言われることがありますが、実は科学的にきちんと証明できているわけではありません。とはいえ、理論的に考えれば目によくはないでしょうから、やはり外出時はサングラスや帽子を身につけてください。暗い部屋でテレビやスマホを見るのも避けたほうがいいでしょう。

――加齢黄斑変性の治療について、安川先生のお考えをお聞かせください。

抗VEGF療法(硝子体内注射)は外来で実施でき身体の負担が少ない治療ですが、費用が高くて何回も注射を打つ必要があります。一方、光線力学療法(PDT)は1回だけで治る可能性がありますが、病院によっては入院が必要で、かえって視力が落ちたり、将来再発したときに治りにくい状況になったりする場合があります。

比較的若い人であれば注射をお勧めすることが多いですが、80代で片目だけに症状がある人であれば最初からPDTで一気に治すこともあります。

――治療についてのよくある誤解があれば教えてください。

よく眼内への注射が怖いという方がいますが、調査3,4)してみると、1回目は怖くても2回目以降はもう怖くなくなった人が多かったようです。それほど痛い治療ではないので安心して受けていただきたいです。なかには90歳で50回も打っている人もいます。

また、注射は自己負担額が高いので、経済的な面から受けるかどうか悩む人もいます。その場合、高齢者かつ症状のない片目が健康であるなら、無理に注射しなくてもいいかもしれません。また、高齢者では通院の問題や目以外の病気などにより、予定していた注射が受けられなくなることがあります。病状によっては注射のタイミングを変えてもあまり支障がない場合もあるので、もし通院が難しい事情があるなら気軽に医師に相談してください。

しかし、まだ60代や70代なのであれば、両目が悪くなってしまった場合のデメリット(車の運転ができなくなるなど生活の質が大きく下がる)を考えると、やはり治療をお勧めしたいところです。

いずれにせよ、しっかり予防をしておけば将来、残念ながら治療をしたけれども視力が落ちてしまった場合や治療の必要性が少ない場合に、ほかの治療に切り替えたり治療を中止したりすることを選択しやすくなります。

もし、両目が悪くなってしまったとしても、無理に治療を続けるのではなく、身体障害者手帳を申請して、ロービジョンケアグッズを割引で入手したり、支援制度を活用したりして前向きに暮らしている方は大勢いらっしゃいます。拡大読書器を使えばずっと新聞や本を読み続けることができる人は多いですから、視力が落ちたことによるストレスは軽減できます。

――最後に、周囲の人が加齢黄斑変性の患者さんに配慮すべきことを教えてください。

加齢黄斑変性は「見たいところが見えなくなる病気」です。ふつうに歩けるので一見問題なさそうなのですが、視野の真ん中だけが欠けているので、人の顔が見られない、文字が読めないといった困りごとに悩まされています。周囲の方も、加齢黄斑変性は身体障害の認定(視覚障害)の第4位となる病気であることを理解していただけるとありがたいです。

加齢黄斑変性の患者さんは、板書された文字や回覧されてきた書類を読むことなどが難しくなっていますので、読み上げるなどの手助けをしていただけるとよいと思います。高齢者が集まる施設では作業療法やリハビリテーション、レクリエーションとして手元で細かい作業をすることがありますが、加齢黄斑変性があるとそのような作業ができません。重症の方では囲碁や将棋をするのも厳しいかもしれません。

患者さん自身も、周囲の人に分かってもらうために、自分は今どのような症状で困っているのかを伝えることが大事です。周囲の理解や手助けを求めるのを躊躇する必要はありませんよ。

――貴重なアドバイスをありがとうございました。

  • Cécile D, et al. Arch Ophthalmol 1998; 116(8): 1031-1035
  • Age-Related Eye Disease Study 2 Research Group. JAMA 2013; 309(19): 2005-2015
  • Droege KM, et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 2013; 251(5): 1281-1284
  • Kato A, Yasukawa T, et al. Adv Ther 2022; 39(3): 1403-1416

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