提供:ノバルティス ファーマ株式会社
日本ロービジョン学会の評議員も務められている武蔵浦和眼科クリニック 眼科専門医の江口万祐子先生。たとえ治療が終わっても、患者さんの日々の生活に寄り添うために医師ができることはたくさんあるとおっしゃいます。
前編では、ロービジョンおよびロービジョンケアについてお聞きしました。
ロービジョンケアは目のリハビリ
「ロービジョン」を「弱視」と思う人もいるようですが、江口先生によると少し意味が違います。
「『視覚障害者』は、身体障害者手帳(以下、手帳)を取得している人。『ロービジョン』は、日常生活において視覚的な困難にさらされている人のことです。なので、視力や視野はじゅうぶんでも、光がまぶしくて見えにくい、色の違いがよく分からないなど、数値化できない部分も含めて、目で困っている人をロービジョンとしています」
視覚障害者は約31.5万人おり、年代別割合をみると、70歳代以上が58.2%、60歳代が20.4%、50歳代が8.9%となっており、50歳以上の方が87.5%に及ぶことがわかっています1)。
また、日本における視覚障害の原因としては、緑内障が21.0%、糖尿病網膜症が15.6%、網膜色素変性症が12.0%となっています2)。
では、「ロービジョンケア」とは何をするのでしょうか?
「例えば、骨折すると治療をして、その後でリハビリをしますよね。目も同じです。治療が終わった後の状態で生活をするために、どんな訓練なりサポートが必要か。それを考えるのがロービジョンケアです」
治療は医師が行いますが、ロービジョンケアは、医師、視能訓練士、看護師、ソーシャルワーカーや支援サービス担当者など、チーム医療として行うのが理想。江口先生は、患者さんと外部の医療サービスをつなぐことにも尽力されています。
手帳の取得手続きや器具の使い方、生活相談に対応
江口先生に、ロービジョンケアとして実際にクリニックでしていることを聞いてみました。
「まずは患者さんの視機能を評価したうえで、手帳取得の要件にあてはまる人には手続きを勧めます。適切なサポートを少ない負担で受けるためには、手帳が必要ですから。そのうえで、遮光レンズのようなメガネやルーペ、拡大読書器の使い方を指導したり使用を勧めたりします。また、生活や仕事の相談を受けたり、支援サービスを紹介したりもします」

ロービジョンケアでは、患者さんの目の状態を知ったうえで、具体的に何に困っているか、何をしたいのか、また何をしたくないのかをくみ取るのが重要です。眼科的な治療を終えた後、医師として患者さんに寄り添うためには、細やかなコミュニケーションが欠かせないのです。
「患者さんによっては、手帳の取得を『障害者になってしまうから』と拒否される方もいます。それでも必ず手帳の話はするようにしています。絶対に嫌と言っていた患者さんでも、後々になって、通勤途中で危険なことがあったから歩行訓練を受けたいと言ってくる方もいます。その時は不要だと思っても、後から必要になることがある。だから、丁寧に話を聞き、必要なことを過不足なく伝えるようにしています」
健康診断と同じように、年に一度は眼科へ
中途でロービジョンになった方は、ショックが大きいといいます。ロービジョンケアを勧められると、「もう治らないのだ」と思いこんでしまう人もいるようです。
「だからこそ、私たちがいることを忘れてほしくないのです。眼科医は治療だけがすべてではない。見えないために困っていることを、患者さんやご家族と一緒に解決していくのが私たちの仕事です。『どうせ見えないんだから』と眼科に来ることをやめてしまう方がいるのですが、健康診断と同じように、せめて1年に1度は通院してほしいですし、かかりつけの眼科をもってほしい。病院は外の医療スタッフやサービスとつながる場所でもあるのです」
ひとりで、あるいは家族だけで悩まずに、眼科医を頼ってよりよい生活ができるようになってほしい。治療をもって終わりではなく、残された視機能を生かすことでQOLを上げる。ロービジョンケアはそのような包括的なケアであるべきと江口先生は話されていました。
後編では、ロービジョンケアの現状と患者会についてお伝えします。
- 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部「平成23年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa.html[2023年7月24日アクセス] - 若生里奈ほか:日本における視覚障害の原因と現状. 日眼会誌, 2014, 118(6), 495-501
当記事は、取材時(2019年3月)の情報をもとに作成・公開されたものです。
再掲にあたり一部株式会社QLifeにて再編集しております。

江口 万祐子(えぐち まゆこ)先生
武蔵浦和眼科クリニック 院長
日本眼科学会 眼科専門医。日本ロービジョン学会評議員。身体障害者福祉法第15条指定医。障がい者スポーツ医。視覚障害者用補装具適合判定医師研修会修了。オルソケラトロジー認定医。日本抗加齢医学会専門医。
1997年に東海大学医学部卒業後、1998年より獨協医科大学越谷病院(現:獨協医科大学埼玉医療センター)眼科。2008年より武蔵浦和眼科クリニック 院長。2021年10月より獨協医科大学埼玉医療センター眼科 非常勤講師。
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