患者の生活を向上させるロービジョンケアとは(後編) ~見えにくくなってからできることがある~

提供:ノバルティス ファーマ株式会社

後編では、武蔵浦和眼科クリニック 眼科専門医の江口万祐子先生にロービジョンケアの現状について、また患者さん同士の「患者会」の意義について、お話しいただきました。

ロービジョンケアを実践する医師が増えている

患者さんは、見えにくい状態が続き、治療によって視力や視野の回復が難しいとわかると「もう終わりだ」と思ってしまいがち。ですが、そこから始められることがあるのです。

「見えにくくなったところからスタートするのがロービジョンケア。ご本人があきらめてしまっている場合でも、ご家族が一生懸命に調べて、私たちのクリニックにたどりつくケースがあります」

ロービジョンケアがこれまであまり浸透していなかった背景に、医師がケアを重視していなかったことが挙げられるのではないかと江口先生は考えています。

「医師としては、見えにくいことへのケアよりも治療に注力してしまいがちです。それに、また、医師側も患者さんに『障害者手帳を取りませんか』とか『ロービジョンケアを始めませんか』と言うと、治る見込みがないと突き放したように思われてしまうこともある。だから言い出しにくい背景もあります」

江口先生は、患者さんの視機能を正しく評価できるのは眼科医だけであり、患者さんには自分の目の状態を知る権利・知る義務があると考えています。そんな中、少しずつ追い風になる事実が積み重なっていきました。

「近年、ロービジョンケアに対して医療制度にも変化があり、医師のロービジョン講習の受講者も増えてきました。今後仲間が増えることを期待しています」

スマートサイトやピアカウンセリングの有用性

また、ロービジョンケアの追い風としては「スマートサイト」の広がりもあります。スマートサイトは、中途視覚障害者支援の一環として、インターネットやリーフレットを通じた情報提供をする取り組みです。

「現在、各都道府県でスマートサイトの製作が進んでいます*。医療や行政、教育など各分野の情報を統括するサイトで、どこにどんな相談をすればいいかという道標です」
*編集部注:スマートサイトは2021年、すべての都道府県で完成しました

江口先生が、ロービジョンの方たちが社会との接点を持つための有用な手段として勧めているのが「患者会」です。名前の通り、同じ病気の患者さんが集まって会を作り、交流を深めたり情報交換をしたりするものです。

「ピアカウンセリングは、互いに理解しあったり励ましあったりできるので、とてもいいんです。私は、クリニックに来る患者さんで、同じくらいの年代の方がいると、あえて同じ日に診察の予約を入れて、互いをご紹介することもあります。仲人みたいなものですが(笑)、その後で一緒に食事をされたり、ご夫婦同士で仲良く出かけたりしていらっしゃるみたいです」

特に、年齢を重ねた方の場合は、見えにくくなったショックで外との関係を絶ってしまうこともあります。社会との接点を作ることも、ロービジョンケアのひとつなのです。

前向きな気持ちがQOLを上げる

ロービジョンケアは、誰もが同じメニューをこなすわけではありません。何がしたいのか、これからどう生きていきたいのか、その目的をしっかり見据えることが大事です。
「仕事を続けたい、今まで通りに家事をやりたい、友だちと旅行に行きたいなど、いろいろなニーズがあります。90歳で、新聞が読みたいからと拡大読書器をマスターされた方もいらっしゃいますし、株がやりたいからとパソコン操作の訓練を受けた方もいます。目的を持つと前向きな気持ちになりますし、それがよりよい成果につながり、QOLが上がるのです」

ロービジョンケアは、患者さんのよりよい生活をサポートするもの。QOLを、できるかぎり見えていたときの状態に戻すことが目的です。そのためには、患者さんと医師の相互の信頼関係を築き、「見えなくなってしまったから」とあきらめるのではなく、目標をもって前向きに取り組むことが大切です。

当記事は、取材時(2019年3月)の情報をもとに作成・公開されたものです。
再掲にあたり一部株式会社QLifeにて再編集しております。

江口 万祐子(えぐち まゆこ)先生
武蔵浦和眼科クリニック 院長

日本眼科学会 眼科専門医。日本ロービジョン学会評議員。身体障害者福祉法第15条指定医。障がい者スポーツ医。視覚障害者用補装具適合判定医師研修会修了。オルソケラトロジー認定医。日本抗加齢医学会専門医。
1997年に東海大学医学部卒業後、1998年より獨協医科大学越谷病院(現:獨協医科大学埼玉医療センター)眼科。2008年より武蔵浦和眼科クリニック 院長。2021年10月より獨協医科大学埼玉医療センター眼科 非常勤講師。


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