ロービジョン患者さんと福祉サポートをつなぐ「ロービジョンケア紹介リーフレット」(スマートサイト)とは

提供:ノバルティス ファーマ株式会社

ロービジョン(視覚障害が日常生活に支障をきたしている状態)の方をサポートするための福祉施設やサービスは各地に存在しています。しかし、そこにアクセスできずに悩みを抱えこんでいる患者さんが多くおられることが、以前から課題となっていました。この課題を解決するために尽力されてきた眼科医の平塚 義宗先生に「ロービジョンケア紹介リーフレット」(スマートサイト)について詳しくお話を伺いました。

平塚 義宗(ひらつか よしむね)先生

順天堂大学眼科学教室 先任准教授

眼科専門医、医学博士(順天堂大学)、公衆衛生学修士(Johns Hopkins大学)。日本眼科医会 理事(公衆衛生)を務めるほか、日本眼科学会、日本公衆衛生学会などに所属。加齢黄斑変性を含む眼科疾患の診療と並行して、患者さんが適切なロービジョンケアにアクセスできるための活動を行っている。


――そもそもロービジョンはどのような状態を指すのでしょうか?

ロービジョンの明確な定義はないのですが、視覚に障害があるために日常生活に何らかの支障が出ていることを指す言葉です。視覚の障害とは、視力が低い状態以外にも視野(見える範囲)が欠けたり、まぶしくて仕方なかったり、夜になると暗いところが見えにくかったりとさまざまなパターンがあります。こういった視覚障害により、読み書きができない、外出や旅行ができない、家事や趣味ができないといった支障が出ている状態がロービジョンです。

――ロービジョンの目安となる視力などはあるのでしょうか。

日本には明確な基準がないのですが、視覚障害による身体障害者手帳を持っていることがひとつの指標になるとは思います。参考として米国の視覚障害の定義は、眼鏡やコンタクトレンズで視力を矯正しても良い方の目の視力が0.5未満であることです。このくらいになると多くの方が日常生活に支障を感じると思います。

――ロービジョンでお困りの方に対して支援するのが、ロービジョンケアですね。

ロービジョンケアとは、医療的な支援だけでなく、教育、職業、社会、福祉、心理などの多方面での支援を含む概念です。しかし、多くの患者さんはロービジョンケアを知らない状態のまま、不自由な生活を続けていらっしゃいます。

例えば、身体障害者手帳を取得すれば自治体から補助を受けて字を読みやすくする機器やまぶしさを軽減する特殊なメガネなどを使えるようになったり、外出への付き添い援護を受けたりして生活しやすくなります。しかし、その情報を受け取ることができる場所(福祉施設や患者会など)についての情報に患者さんがアクセスしづらいことが、以前から指摘されていました。

ですから、そういったロービジョンケアに出会える場所の情報を患者さんに知らせることが必要です。本当は眼科医が詳しい情報をお伝えできればよいのですが、実際のところ眼科医は目の前の患者さんの治療を優先せざるを得ず、そこまで手が回りません。ですから、せめてロービジョンケアの情報を教えてくれる福祉施設や団体を紹介するところまで眼科医が支援できるとよいと思っています。

ちなみに、大学病院ではそういった支援を中心に行う「ロービジョン外来」が設置されているところが多いのですが、それ以外の病院やクリニックでは少ないのが現状です。

――それで多くの患者さんがロービジョンケアを受けられるよう「ロービジョンケア紹介リーフレット」(スマートサイト)を全国に展開されたのですね。

はい、2011年よりロービジョンの方を支援する福祉施設やサービスを記載したリーフレットを都道府県単位で作成する取り組みを始めました。

医療から福祉への、不十分な連携体制についての問題提起は、日本では1965年からなされていました1)。そこからずっとこの課題が解決できないままで、約50年経過した2016年にもこの点が患者団体から指摘されています2)。私はこの課題を何とかしなければいけない、何か良いアイデアがないだろうかと思っていたときに、ロービジョンケアの専門家である仲泊 聡(なかどまり さとし) 先生からロービジョンケア紹介リーフレットというものがあると教えていただきました。

日本で最初にロービジョンケア紹介リーフレットを作ったのは兵庫県(神戸)で、その次が岡山県です。これを真似て全国に広げたらいいのではないかと考えました。私が理事(公衆衛生)を務めている日本眼科医会のウェブサイトに既存のリーフレットを掲載して、他の都道府県でも同じようなものを作ってみたらどうかと提案し、少しずつ広がっていきました。

その頃、ちょうど視覚障害者の支援をテーマとして国の研究費が公募されました。幸いなことに応募したら採択され、まとまった予算が確保できたのです。この予算を使って全国に一気に広めることができました。すでにロービジョンケア紹介リーフレットを作っている県の先生を講師に招いて勉強会を行い、そこに全国の眼科医を集めて、地元でこれを作ってくださいとお願いしました。その後2021年に47都道府県すべてでロービジョンケア紹介リーフレットが用意できました。

――平塚先生が取り組みを開始されてから、ちょうど国の研究費も付くという幸運もあって、全国でロービジョンケア紹介リーフレットが整備できたのですね。

この研究費が取れなかったら、おそらくロービジョンケア紹介リーフレット作成はいまだに数県で止まっていたのではないかと想像します。

眼科医が日常診療をこなしながら福祉施設やサービスをまとめるというのは、非常に厳しいことです。まず地域の福祉施設を知らないといけませんし、どの施設をリーフレットに記載して、どの施設は取り上げないと判断するのは大変なことです。しかし、熱意のある先人が道を切り拓いてくれて、貴重な経験や教訓が蓄積されていましたから、そのノウハウを全国の先生方に共有していただきました。

――ロービジョンケア紹介リーフレットを全国で整備して、ロービジョンの患者さんにはどのような変化があったのでしょうか?

やっぱりすごく喜ばれますよね。今まではほとんどの方がロービジョンケアの情報を思うように手に入れられていませんでしたから「こんなに便利なものがあったのか」と喜ばれます。以前は自分たちで探し当てないと情報を入手できませんでした。しかも視力が悪いために情報へアクセスしにくくなっていますから、それはとても難しいことでした。そこに情報がひとつにまとまっているロービジョンケア紹介リーフレットが登場したのは大きな変化です。

実は、多くの眼科医もそういう情報をほとんど持っていなかったという背景がありました。忙しい日常診療のなかで、ロービジョンを抱えて生活する患者さんに対して、何かしてあげたいという気持ちは持っていても、適切な紹介先が分からないという状況が続いてきたわけです。ロービジョンケア紹介リーフレットがあることによって、眼科医も適切な紹介先を知ることができました。

ロービジョンケア紹介リーフレットを全国で整備してどのような変化が起こったのか、調査・発表しています3)。全国のロービジョンケア紹介リーフレットに記載されているロービジョンケア関連施設420件に対して調査を依頼したところ、208施設(49.5%)から回答を得ました。その結果、31.0%の施設がロービジョンケア紹介リーフレット導入により相談が増加し、逆に18.1%の施設から眼科へ紹介・相談したという結果が出て、双方向で連携が深まったことが示されました。

また、ロービジョンケア関連施設の問題点も見えてきました。約4割の施設が、患者さんへどのような支援・サービスを実施したのか紹介元の眼科医療機関に「報告していない」か「ほとんど報告していない」こと、約3分の1の施設では眼科医療機関から提供される情報を「あまり理解していない」「理解していない」ことが分かりました。

当初はロービジョンケアを行う施設に患者さんを紹介できれば、後はうまくいくだろうと思っていたのですが、実はその先にも問題があることが見えてきたわけです。質を改善するためにわれわれ眼科医にできることがあれば勉強会などでサポートしたいと思います。今後少しずつ質が改善していくのではないかと期待しています。

――大学病院などにとどまらず、開業医(クリニック)などでもロービジョンケア紹介リーフレットを配布するようになっているのでしょうか。

ロービジョンケア紹介リーフレットはリーフレット1枚を手渡すだけですから、忙しい開業医の先生でも実施できるのではないかと思っています。病院に勤務している眼科医より、開業している眼科医の人数の方が多いので、開業医の先生もロービジョンケア紹介リーフレットを活用していただくことが、根本的な解決に必須であると考えています。

ですから、眼科医の中でもロービジョンケア紹介リーフレットの認知度を高めていく必要があります。眼科専門医の更新に必要な講習会やロービジョンケアの教材などで紹介するようにしています。

――もし、この記事を読んだ方がまだスマートサイトをもらっていない場合は、どうしたらいいですか?

日本全国のロービジョンケア紹介リーフレットを日本眼科医会のウェブサイトで一般公開しています。どなたでも下記から入手いただけます。

必ずしも眼科医から紹介されなくても、患者さんが自分でロービジョンケア紹介リーフレットを見て、必要な支援にアクセスいただければいいと思います。とにかくロービジョンケアへのアクセスに対する障壁を下げたいのです。特に眼科医に事前に相談したり、紹介を得たりする必要はありませんので、お早めに興味のある施設へ話を聞きに行くことをおすすめします。早くアクセスした分、ご自身の生活の質が上がるのが早まると思います。

――多くのロービジョンの患者さんやご家族に役立つ素晴らしい取り組みについて教えてくださり、ありがとうございました。今後、ロービジョンケアの質が向上し、普及していくことを願っています。

参考文献

  • 紺山和一ほか:臨眼, 1965, 19, 113-129
  • 日本盲人会連合:読み書きが困難な弱視(ロービジョン)者の支援の在り方に関する調査研究事業―報告書―, 2016 http://nichimou.org/wp-content/uploads/2017/03/yomikaki.pdf [2023年9月5日アクセス]
  • 平塚義宗ほか:眼科臨床紀要, 2022, 15, 660-666

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