【医師からのメッセージ】「終わりのない病気」加齢黄斑変性 患者さんが希望する状態に向けた視力維持と治療負担のバランスの実現がゴール

「ミルエル」の質問箱コーナーにて皆さまからの質問にご回答くださっている福岡歯科大学総合医学講座眼科 教授の大島裕司先生は、加齢黄斑変性の診療を数多くご経験されています。今回は大島先生に、加齢黄斑変性の治療や予防についてのお考え、様々な状況に置かれている患者さんへのアドバイスなどをお伺いしました。

大島 裕司

大島 裕司(おおしま ゆうじ)先生
福岡歯科大学総合医学講座眼科 教授
日本眼科学会専門医・指導医。眼科PDT認定医。医学博士。
長崎大学医学部卒業後、九州大学大学院医学研究院眼科、ジョンズ・ホプキンス大学ウィルマー眼研究所、別府医療センター眼科 医長、北九州市立医療センター眼科 主任部長、福岡大学筑紫病院眼科 准教授、九州大学病院眼科 特任准教授、済生会福岡総合病院眼科 主任部長を経て、2021年に福岡歯科大学医科歯科総合病院眼科 准教授。2022年より現職。


――加齢黄斑変性の「治療のゴール」についてどのようにお考えですか。

加齢黄斑変性治療における本当のゴールは、「患者さんが希望する状態に向け、視力維持と治療負担のバランスを実現すること」だと考えています。医師としての理想は、継続的に治療を行って、網膜の中心にある黄斑部に水(滲出液)がないドライな状態を保つことですが、患者さんによっては治療の負担が大きいこともあります。

どんな治療をして、どのくらいの視力を維持するかは、患者さんの生活環境や仕事、運転、趣味、考え方、経済的な背景などによりますので、医師の理想と患者さんの理想のギャップをできるだけ埋めるようにお話をしながら、その方の望む状況にしていけるように日々診療しています。

――患者さんご自身が、加齢黄斑変性の治療によってどうなりたいか・やりたいことは何かを医師に伝えることが大切ですね。先生はふだん患者さんに、治療にあたり病気についてどのようにお話しされておられますか。

私は診療の最初に、いつも下記のようなことをきちんと説明するようにしています。

  • ・加齢黄斑変性は治療の終わりがない病気である
  • ・加齢黄斑変性は加齢により起こる病気である
  • ・治療を止めると悪化する可能性がある
  • ・日本の身体障害(視覚障害)の認定原因の第4位である1)

加齢黄斑変性は治療をせずにいると、数年で重篤な視覚障害を起こす可能性があることが知られています。近年、加齢黄斑変性の治療法は大きく進歩しましたが、発症する前の視力に戻すことはできません。治療し続けることで現在の視力を維持し、再発を予防することを目指します。

そのうえで、患者さんの望む状況に向け治療を工夫していきます。

――加齢黄斑変性の治療について、患者さんに知っておいてほしいことはありますか。

現在治療可能である滲出性加齢黄斑変性に限ってお話しすると、治療の第一選択は抗VEGF薬の注射です。

患者さんの加齢黄斑変性のタイプ(病型)によっては、注射にレーザー治療(光線力学的療法;PDT)を組み合わせると、1年目の注射回数を減らせる可能性があります。しかし、レーザー治療は何度もできませんし、注意すべき副作用が起こることもあります。また、治療費の面では、1年目の治療費が少なくなったとしても、その後の治療回数が多ければ総額は同じということもあります。

そのうえで、患者さんそれぞれの生活スタイルや価値観などを含めた様々な観点から、メリットとデメリットを考えて治療法を決めています。ご説明したうえで、患者さんご自身に選んでもらうこともあります。

そのため、同じ医師にかかっている同じ病気の人同士でも、治療法は同じではないことを知っておいていただければと思います。

――日常生活での注意点についてはいかがでしょうか。

一番は禁煙です。電子タバコも含めての禁煙を勧めています。

また、サングラスなどで目を紫外線から守ることも勧めています。ただし、ブルーライトはそれほど厳重に制限する必要はなく、テレビやパソコン、スマホやタブレットは通常の使用であれば問題ありません。お酒も適量を心がけていただければ大丈夫です。

食生活については、加齢黄斑変性の発症・進行予防の効果があるルテインが含まれるブロッコリー、ほうれん草などの緑黄色野菜を積極的に摂るようにアドバイスしています。ルテインは黄斑部に存在する色素成分で、人間の体内では作り出すことができないので、食物から摂取するしかありません。

しかし、米国で行われた研究において予防効果が得られたルテインの摂取量は、1日10mgであるとの報告があります2)。これはかなりの緑黄色野菜を食べないと摂れない量なので、サプリメントで補うのが現実的です。特に片目が悪くなり、もう反対の目にも症状が出始めた人にはサプリメントを勧めています。というのも、ルテインを含んだサプリメントを継続的に摂っていない患者さんでは、摂っていた患者さんと比較して、反対側の目に加齢黄斑変性を発症する確率が9倍高くなるという日本人での臨床試験データ3)が出たからです。

ただし、サプリメントは処方薬ではないので健康保険が使えませんし、1か月分の値段も3,000~4,000円台と決して安いものではありません。サプリメントを摂るかどうかは患者さん次第ですが、摂ると決めたならきちんと続けた方がよいと伝えています。

また、EPAやDHAなどのオメガ3(n-3)系脂肪酸にも予防効果があると言われていますので4)、魚(特に青魚)を積極的に食べるとよいでしょう。

――そういった日常の注意点について、医師に詳しく聞く機会がない場合はどうすればよいでしょうか。

医師に聞きにくいことは、看護師や視能訓練士などのスタッフに気軽に声をかけて聞いていただければと思います。

また『ミルエル』のような加齢黄斑変性の患者さん向けのサポートサービスは、主治医の先生に聞きにくいことを聞ける場ではないでしょうか。病状や生活などについて注意すべき点なども学ぶことができますし、自分と同じことに悩んでいる人が全国にたくさんいることに気づくことができます。こういったサービスは患者さんの大きな助けになると思いますし、医師としてもありがたいと思っています。

――加齢黄斑変性の治療を続けるのが難しくなってきた人へのアドバイスをいただけますでしょうか。

私は加齢黄斑変性の治療を続けるモチベーションを高めるために、できるだけ網膜の画像(OCT)など現在の病状をお見せするようにしています。患者さんご本人は治療効果を実感できていなくても、初診時の画像と現在の画像を比較すると、網膜の状態が改善していることが分かります。治療や生活習慣の改善を頑張っていて、その成果が視力や画像に出ているときは「よかったですね」と患者さんと一緒に喜んでいます。

しかし、様々な理由で治療を続けられないかもしれないということであれば、信頼できるかかりつけ医を自宅の近くにある眼科の診療所(クリニック)などで探し、そこで目のチェックだけは継続的にしていただきたいです。視力が残された片目を守るためにも、何らかの形で医療機関とつながっていてください。

実際に私の患者さんでも、注射を打つときだけ大学病院に来ていただいて、それ以外はかかりつけ医に目の状態を確認してもらうという形を取っている方がいらっしゃいます。このように病院と診療所が連携して患者さんを診ることを「病診連携」といいます。状況にもよりますが、症状がある程度落ち着いている方ならば病診連携も可能かと思いますので、もしご希望があれば主治医に相談してみてください。

――治療費を気にしている方もいらっしゃいますよね。高齢だから気が引けるという方もいそうです。

私の患者さんにも「老い先短い自分のために皆さんの税金を使って高い薬で治療してもらうのは申し訳ない」とおっしゃる方がいらっしゃいました。

しかし、加齢黄斑変性の治療にかかる費用と、失明した後にかかる福祉・介護サービス費用などを全部計算して費用対効果(コストパフォーマンス)を分析した研究5)では、定期的に治療を受けていただいた方が社会全体としてはお金がかからないという結果でした。

継続的に治療をすることは、一見とてもお金がかかっているように思われますが、実はそうではないのですね。治療せずに視力を失うことで、むしろ家族や周囲の人々の負担になってしまう可能性があるということも考慮すべきかと思います。

――それでも治療を拒む方に対しては、どのように対応していますか。

難しい問題ですね。どんなに説明しても理解が得られないのであれば、最終的には本人が「治療しない」という選択をされたことを尊重するしかありませんが、下記のようなアドバイスはしています。

  • ・治療しないと視力はだんだん低下していく
  • ・視力が悪くなってから治療しても、もうそれ以上は視力を良くすることはできない
  • ・早期に治療し、落ち着いたら治療間隔を延ばしながら定期的に続けていくことで、現在の視力を長期的に維持できる
  • ・治療をしない場合も、網膜の状態を確認するために通院してほしい

――少なくとも、患者さんと医療とのつながりが途切れてしまうことは避けたいですね。以前は治療をしていたけれど、最近は足が遠のいているような方はいかがでしょうか。

そういう方は、ご自宅で加齢黄斑変性が悪くなっていないかどうか、片目ずつアムスラーチャート(碁盤の目)を見てみて、歪んで見える場所や見えない場所(中心暗点)が以前よりも広がっていないか、歪みがひどくなっていないかを確認してください。悪化しているようなら、お近くのクリニックでいいので眼科医に診てもらってください。できれば以前通ったことのある病院に行っていただくのがお勧めです。

日常的に視界に入る場所、例えば冷蔵庫のドアなどにアムスラーチャートを貼っておくといいですよ。

――加齢黄斑変性かもしれないと思っていても、何となく怖かったりして病院に行けていない方へのアドバイスもお願いします。

この記事を読んでくださっているということは、加齢黄斑変性のことが気になっているということだと思います。

もし、大きな病院に行くのが怖ければ、まずはお近くのクリニックを受診されたらいいと思います。こんなこと言ったら迷惑かもしれないとは思わないで、気になったらまず相談してください。診察してみて問題なければそれでいいのですから、安心して受診してください。

受診して加齢黄斑変性だと分かっても、その場ですぐに注射することは患者さんの病状にもよりますが、多くはありません。初回受診では病気の説明をしてパンフレットを渡して、次回治療の予約を入れることが多いです。治療の同意書にサインした後でも気が変わったり、どうしても嫌になったりしたら言ってくださいとお伝えしています。

もちろん、加齢黄斑変性は早期に見つけて、早期に治療を開始した方がよい視力を長く保つことができます。しかし、様々な理由で二の足を踏んでいる方の場合は、まずは様子を見て症状が悪化するのか改善するのかを確認するなど、ワンクッション置くこともあります。

加齢黄斑変性は放置すると重篤に視力障害を起こすことがある病気です。怖がらずに、時々片目をつぶってみておかしいなと思えば、遠慮なさらずに、まずは眼科を受診してください。

――貴重なアドバイスをありがとうございました。

※ご自身の治療・症状については、主治医の先生にご相談ください。

参考

  • Yuki Morizane, et al. Jpn J Ophthalmol 2019; 63(1): 26-33
  • Age-Related Eye Disease Study 2 Research Group. JAMA 2013; 309(19): 2005-2015
  • Oshima Y, et al. PLoS One 2022; 17(2): e0264703
  • Chua B, et al. Arch Ophthalmol 2006; 124(7): 981-986
  • Yanagi Y, et al. J Med Econ 2017; 20(2): 204-212

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