視覚障害者のホーム転落事故を防ぐ取り組み~国を挙げてホームドアの普及を進める~

提供:ノバルティス ファーマ株式会社

全国のホームドア設置状況

JR日暮里駅(2020年1月)、 JR阿佐ヶ谷駅(同年7月)などにおいて視覚障害者がホームから転落する痛ましい事故が続いています。国土交通省は2026年3月末までに、1日平均利用者数が10万人以上の駅で800か所、すべての駅のうち合計3,000か所でホームドアを整備する目標を掲げています1)。そのうち2022年3月末の時点でそれぞれ整備されているのは493か所、2484か所です2)

しかしながら、JR新宿駅や渋谷駅など、ホームドア設置に駅大規模改良工事を要する駅も存在しています。 政府は駅のバリアフリー化を進めることを目的に、2021年にホームドアやエレベーターなどの設置費用を利用者に負担してもらう「鉄道駅バリアフリー料金制度」を制定しました。各社はそれを活用し運賃の上乗せを行う一方で、バリアフリーの整備の進ちょく状況について年度ごとに公表することが求められます。

視覚障害者への注意喚起とサポートの強化

整備に多くの時間や費用を要することや、構造等の要因で整備が困難なホームもあることから、国土交通省では現在、ホームドアが整備されていない駅ホームにおいて、ITやセンシング技術等を積極的に活用し、駅係員のみならず鉄道利用者による協力も視野に入れた対策についても検討しています。2020年には、視覚障害者団体・支援団体、学識経験者、鉄道事業者、国土交通省(オブザーバーとして厚生労働省)をメンバーとした「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会」が立ち上がり、2023年6月までに12回開催されています。

検討会では、線路転落を物理的に防止するホームドアの整備といった対策以外に、ホーム端への接近時の注意喚起、視覚障害者の案内・誘導・訓練、また万が一転落しても接触事故に至らせないための対策などについて、具体的な話し合いがなされています。

例えばホーム端への接近時の注意喚起としては、点状の突起に加え、ホーム側が分かる線状の突起を設ける「内方線付き点状ブロック」があります。こちらは2026年3月末までに利用者数3,000人以上の駅で原則100%整備する目標が置かれています1)。そのほか、色彩による駅ホームの縁の視認性向上の取り組みもなされています。

縞模様や色帯が設置されたホームをご覧になったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

内方線付き点状ブロック1内方線付き点状ブロック2

また、AIカメラによる見守りや転落検出の実証試験ならびに情報共有も始まっています。

一方、視覚障害者の案内・誘導・訓練については、駅員等による案内・支援のほか、駅ホームでの歩行訓練の認知度向上、歩行訓練士の確保を含めた、視覚障害者自身の歩行訓練の実施に向けた課題の検討も進んでいます。

一般の乗客に向けても、車両内のモニター表示や駅のポスター掲示等の具体的な方法や内容を検討し、視覚障害者に具体的にどのような声掛けをし、介助をするとよいかの方法を伝えることで、視覚障害者へのサポートを促進します。また歩きスマホの禁止、視覚障害者の歩行を阻まない、点字ブロックの上に立ち止まらないことなどの啓発も、引き続き求められます。

また、転落を検知し列車を停止するための、列車非常停止ボタンならびに転落検知マットについては、列車の運行速度がおおむね60km/hを超える線区で、かつ、1時間あたりおおむね12本以上の通過または停止する列車があるホームについてはすでに整備がなされています。今後は駅構内の既設カメラの映像をリアルタイムに解析し、線路への人物の転落等を検知した際に駅執務室内の駅係員が非常停止ボタンで列車停止を手配する、「転落検知通報システム」の情報共有が進められていくとのことです。

駅ホームにおける視覚障害者の安全を守るために

駅ホームにおける視覚障害者の安全を守るために「多角的な対策」の必要性を唱えているのが、成蹊大学名誉教授であり、大原記念労働科学研究所 特別研究員の大倉元宏氏です。検討会のメンバーでもある大倉氏は、1974年から2016年に起きた視覚障害者の転落事故のうち、14件について聞き取り調査をしたところ、視覚障害者がホーム上で障害物などを避けた際に方向感覚を失ったことが原因である事故が多かったと指摘します3)。そのため、視覚障害者の行動・保有視覚・普段と異なる特殊事情など、さまざまな視点で事故を分析することを提唱しています。

そして、やはり事故を防ぐために欠かせないのは健常者のサポート。駅員はもちろんのこと、すぐ近くにいる人が声を掛けて手をさしのべるだけで防げる事故もたくさんあるのではないでしょうか。 ホームドアの設置とともに「心のバリアフリー」を進めていくことが求められています。

  • 国土交通省:国土交通省webサイト「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会(第12回)」
    https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001615603.pdf[2024年7月11日アクセス]
  • 国土交通省:国土交通省webサイト「令和4年度末 鉄軌道駅における駅の段差解消への対応状況について」
    https://www.mlit.go.jp/common/001448936.pdf[2024年7月11日アクセス]
  • 国立情報学研究所:科学研究費助成事業データベース
    https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-25350458/25350458seika.pdf[2024年7月11日アクセス]

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