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新生血管型加齢黄斑変性の治療は、年々選択肢が増えています。今回は、兵庫医科大学 眼科学講座 主任教授の五味文先生に、治療の変遷と最新治療の傾向、ならびに治療方針の決め方などについて伺いました。

五味 文(ごみ ふみ)先生
兵庫医科大学眼科学講座 主任教授
大阪大学医学部卒業後、大阪大学眼科入局。大阪労災病院眼科、大阪大学眼科講師、住友病院眼科診療主任部長などを経て2016年より現職。NPO法人黄斑変性友の会 アドバイザー。
――加齢黄斑変性の治療は、これまでどのような変遷をたどりましたか。
2000年代前半にレーザーを用いた光線力学的療法(PDT)が登場して、無治療の状態より視力が保てるようになりました(図)。
続いて、2000年代後半に抗VEGF薬が使えるようになり、視力の改善も期待できるようになりました(図)。
――2024年現在、どのような治療が多く行われていますか。
2020年代に抗VEGF薬の種類が増え、治療戦略にも変化が現れているように思います(図)。
抗VEGF薬は、2010年前後に発売されたものと、2020年以降に発売されたものに分類されます。前者を第一世代、後者を第二世代とすると、第二世代は第一世代より強くて長く続く効果が期待でき、投与間隔を長くすることができます。ただし、受診の回数が減ると、途中の再発に気づかず悪くなってしまう可能性があります。
第一世代の抗VEGF薬しかなかった時期は、PDTや他の治療と併用することもありましたが、第二世代の薬剤では、はじめに単独で治療を開始したうえで、効果が足りない場合にほかの治療や併用治療を検討していきます。

――治療選択肢が多岐にわたる中、医師はどのようなことを考えて治療を決めるのですか。
以下のことを確認して治療を進めます。
【医学的な要因】
-
・患者さんの眼の状態
- ✔️ 直ちに治療が必要か
- ✔️ より強力な治療が必要か
- ✔️ どのくらいの視力回復が得られそうか
-
・患者さんの身体的状態
- ✔️ 抗VEGF治療による全身へのリスクがあるか
【患者さん側の要因】
- ・反対側の視力はどうか
- ・現状の見え方にどの程度困っているか
- ・治療費や通院の負担が大きいか
――抗VEGF薬を投与するケースでは、一般にどのような経過をたどりますか。
抗VEGF薬の導入期と維持期に分けると理解しやすいでしょう。
【導入期】
患者さんの希望は伺いますが、検査で眼の状態が悪いと判断したときは抗VEGF薬での治療を強く勧めます。この病気は見えなくなるリスクがあり、実際に手遅れになって視力が戻らず困っている患者さんをたくさんみてきたからです。
導入期では、どの抗VEGF薬でも基本的に約1か月に1回、連続3~4回、眼内に注射します。導入期での「治療に対する反応(治療反応性)」で、今後の治療の目途を推定できます。一般に、治療反応性が良ければ、維持期では少ない治療回数で、注射の投与間隔も長めに空けられることが多いです。
【維持期】
維持期は、患者さんと医師のコミュニケーションがより大事になります。私は維持期に入る前に患者さんの希望を再確認しています。
【患者さんから聞く、さまざまな希望(希望は患者さんによって大きく異なる)】
- ・できるだけ視力を上げたいので、治療が必要な際はできるだけ受けたい
- ・見え方には困っていない(注射が怖い)のでできるだけ治療は受けたくない
- ・通院が大変(患者さん自身だけでなく付き添いの家族の負担もある)
- ・できるだけ費用をかけたくない
【五味先生が患者さんに尋ねていること】
- ・加齢黄斑変性という病気や治療方針について理解できているか
- ・患者さんの生活スタイル、通院手段、患者さんがやりたいと思っていること など
医師側で把握した治療反応性(今後の目途)と患者さんの希望・生活スタイルを組み合わせ、患者さんと話し合って抗VEGF薬の投与間隔を決めます。
主な治療方針は3つあり(表)1)、最終的に休薬・中止に至ることもあれば、薬の効果が不十分だと判断する場合は別の抗VEGF薬に変えることもあります。
●維持期の投与間隔の主な違い
第一世代 | ・症状により投与間隔を適宜調節するが、基本的な投与間隔が決まっているものもある ・投与間隔は1か月以上あけることが必要 |
第二世代 | ・通常、12~16週ごとに1回、眼内注射で投与 ・症状により投与間隔を適宜調節するが、8週以上あけることが必要 |
●主な治療方針1,※)
PRN法 | ・PRNは、Pro re nata(プロ・レ・ナタ;必要になれば)の略語 ・必要に応じて投与する方法(例:症状が悪化したら投与) 【例】注射回数を減らしたい患者さん など |
TAE法 | ・TAEは、Treat and extend(治療して投与間隔を延長)の略語 ・治療した後、経過をみながら投与間隔を調節する方法 【例】治療反応性が良く、投与間隔を空けられそうな患者さん など |
固定投与 | ・あらかじめ、投与間隔を決めて投与する方法 【例】できるだけ視力を上げたい患者さん など |
※五味先生の場合:眼の状態に応じた選択が大前提にはなるが、TAE法を基本として、少しでも改善していれば投与間隔を延長して、休薬・中止に持ち込めることを目指すという。
1) 安藤智子. あたらしい眼科 2024; 41(1): 61-62および五味先生のコメントより作成
――医師側では、治療反応性や維持期治療の要否をどのように判断しているのでしょうか。
視力だけでなく、画像検査(OCT検査)上の黄斑や網膜に溜まった液体(むくみ)の状態で判断しています。OCT検査のほうが、見え方の変化より異常を早く発見できます。
――患者さんの治療モチベーションアップのために、五味先生が行っていることは何ですか。
私は病状の説明時にOCT検査の画像を患者さんに見ていただいています。そうすることで、患者さんは、自分の眼の状態や前回からの変化、治療の必要性を理解しやすくなります。
また、治療を行う病院とお住まいが離れている患者さんの場合は、通院の負担を考え、紹介元の眼科クリニックで治療経過を診ていただいています。クリニックと病院、双方の医師で治療方針や経過を共有し、それぞれの医師から患者さんに説明されることで、患者さんの納得感も高まるように思います。
TAE法を採用した場合、投与間隔をできるだけ延ばすようにしています。患者さんにより治療に前向きな気持ちになっていただけるように思います。
――患者さん側で注意すべきことはありますか。
たとえ病状が良くなったとしても、見え方のチェックを欠かさず行い、気づかずに病状が進行しているという事態になるのは避けていただきたいですね。かかりつけの眼科クリニックの先生にも、「眼の検査を定期的に行ってほしい」と、お願いしてください。
――医師とのコミュニケーションの際に、患者さんが気をつけることはありますか。
患者さんが多くのことを伝えようとしても、医師が受け止め切れないときがあります。治療を担当する医師とお話しされる場合は、以下の点をまず伝えていただくのが良いと私は考えます。
- ① 前回の治療の後に起きた見え方や体調の変化
- ② 治療の予定をたてるうえで配慮してほしいこと(他の病院への通院や旅行の予定、家族の状況など)
また、患者さんが情報を集めていく中で、知識が偏ることもあります。迷ったときには、主治医に尋ねてください。どうしても治療方針に納得できない場合には、他の医師の意見も聞いてみてください。
――2024年発表の加齢黄斑変性の診療ガイドラインについて、患者さんが知っておくとよい情報はありますか?
2024年9月、新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドラインが公表されました2)。医療者向けの内容ですが、以下は患者さんに知っていただきたい点です。
- ・ 目の構造や代謝・遺伝的要因などさまざまな発症要因があること
- ・ 若くても発症することがあること
- ・ 喫煙(タバコ)は止めること
- ・ 早期の治療開始が視力維持に望ましいこと
- ・ 治療にも限界があること
2) 日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ.
日眼会誌 2024; 128(9): 680-698 より作成
――最後に、この記事をお読みの皆さんへメッセージをお願いします。
患者さん側からすると、医師に聞けないことが多々あると想像します。そんなとき、知識を得る一助にミルエルを活用ください。また患者会で、同じ病気の人と交流することでも、有用な情報が得られると思います。
五味先生がアドバイザーを務める
地域・性別・年齡を問わない黄斑疾患を持つ患者のための患者会
NPO法人「黄斑変性友の会」
https://www.amdkansai.org/
- 安藤智子. あたらしい眼科 2024; 41(1): 61-62
- 日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ. 日眼会誌 2024; 128(9): 680-698
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