加齢黄斑変性の患者さんの多くが「今の視力を維持したい」「もっと見えるようになりたい」と希望されていることでしょう。そのために具体的にどのような治療を受ければ良いか、思いや考えを整理する上でポイントとなるのが「治療目標」です。
同じ加齢黄斑変性の患者さんでも、生活スタイルや価値観は各々異なります。そのため、治療を行う理由や目的も一人ひとり違うものになります。ご自身に合った治療目標を見つけることができれば、それを達成するための適切な治療が見えてきます。
こちらの記事では、ミルエル会員アンケートでお寄せいただいた回答や体験の一部をご紹介しています。同じ病気を持つ方の声が、ご自身の希望を叶えるための現実的な治療目標や、生活スタイル、価値観に合った行動のきっかけとなれば幸いです。
治療目標を設定することのメリット
加齢黄斑変性に対する治療目標を定めることで、どんな変化が期待できるのでしょうか。
加齢黄斑変性になって、視力が落ちたり、視界が歪んだりすることへの不安が高まるのは自然なことです。そのような時、目標を設定したり見直したりすることが、精神的な助けになる場合もあります。
Aさん
「いずれ視力がもっと衰えるだろう。その時どう生きて行けるかという不安」
↓
「(同じ病気を持つ)仲間で、2級の障害者手帳をお持ちですが、それを感じさせないほど明るく、趣味もお持ちでタブレットを使いこなしている方がいます。私もその方をロールモデルにして生活したいと思いました」
アンケートでは、さまざまな具体的な治療目標が寄せられました。
| 治療目標 | |
| Aさん | ロールモデルを見つけたので、自分もそうなりたいと思う |
| Bさん | 「家族と楽しい時間を過ごしたい。目が見えるうちにいろいろな所へ行きたい。少しでも今の状況を維持できるように」 |
| Cさん | 「運転免許証をこれからも更新していきたい。眼鏡をしての視力が少し落ちてきているので、これ以下にならないことを目標にする」 |
| Dさん | 「文字を認識できる状態を維持したい。良い方の右目の能力を維持し、左目の進行をできるだけ遅らせる」 |
| Eさん | 患者団体の運営 |
治療目標を見つけるヒント
治療目標は、「ご自身の生活で大切なこと」と「目の状態の維持・改善(治療ゴール)」の組み合わせで考えることができます。
治療目標を定めるのに、何から始めるのがよいか分からないという方は、まずは身近な生活面からステップを踏んでみましょう。
現在の生活で大切にしていること・今後の人生で大切にしたいことの洗い出し
ご自身にとって、「生活で特に大切にしていること」は何でしょうか?
「自分らしい生活の維持」という視点があると、具体的な「目の状態の維持・改善」をイメージしやすくなり、目指すべき「治療目標」が立てやすくなります。
なお、治療については「ゴール」したら終わり、というわけではないという意見もあります。
「ゴールはない。敢えて言うなら現状維持/治療を継続していく」
加齢黄斑変性は継続的な管理や治療が必要になる場合が多く、その意味では「ゴールはない」とも言えるでしょう。
一方で、この方のケースでも「現状維持/治療継続」という目標を設定されています。「完治」というゴールがないからこそ、「現状維持」や「治療継続」といった具体的な「目標」を設定することに大きな意味があるのです。
これらを整理するのに役立つのが、『加齢黄斑変性とともに自分らしく生きるために~医師と患者が創る新しい意思決定「SDM」~Vol.1自分に合った加齢黄斑変性治療を考える3Step』にある『【Step3】治療と生活の上での希望や好みを考える』です。この記事では、ご自身の生活や楽しくて続けたいこと・したいこと(希望・好み)をまとめるポイントを紹介しています。
治療ゴール「目の状態の維持・改善」を、より具体化する
CさんとDさんの場合、大切にしていること(運転/文字認識)から、具体的な目の状態を想定されています。この2要素が、それぞれの治療目標につながっています。
| Cさん | Dさん | |
| 大切にしていること (抜粋) |
運転免許証の更新維持 | 文字を認識できる状態をずっと維持したい |
| 具体化 (細かい治療ゴール) |
眼鏡をしての視力が少し落ちてきているので、これ以下にならないことを目標にする | 良い方の右目の能力を維持し、左目の進行をできるだけ遅らせる |
多くの患者さんの治療ゴールである「目の状態の維持・改善」から、さらに細かい設定ができると、治療目標はより明確になります。
情報を集める
多くの情報は、治療目標を見出す助けになります。特に積極的に情報収集・発信・共有されていたAさんとEさんの体験談をご紹介します。
Aさん
「同じ病の会の仲間との楽しいお付き合いと情報交換(新薬・生活・補装具・ロービジョン)」
「国立障害者リハビリテーションセンター病院や神戸アイセンターのZoom勉強会に参加。国立障害者リハビリテーションセンター病院の勉強会から、補装具のことやスマホの中に弱視者用アプリを検索した。仲間の皆さんに共有した」
Eさん
「会報誌を発行している」
「Zoom交流会を通じて体験交流や情報の共有に努めている」
情報を集めるだけでなく、情報を共有することでコミュニケーションが生まれ、さらなるヒントを得られることがあります。
医師とのコミュニケーションを活用する
Aさんは、情報収集の中で「医師とのコミュニケーション」の重要性にも触れていました。
Aさん
「新しい治療情報(お薬・お医者さんとのお付き合いの仕方も含めて)・生活工夫情報を得る」
医師から情報を得る、また医師に情報を伝えることも、情報の活用と言えます。また、共同意思決定(SDM)にもつながっていきます(『加齢黄斑変性とともに自分らしく生きるために~医師と患者が創る新しい意思決定「SDM」~Vol.1自分に合った加齢黄斑変性治療を考える3Step』参照)。
患者さんの体験談では、短い診察時間における医師とのやり取りで、以下のような工夫が見られました。ぜひ参考にしてください。
聞きたいこと・伝えたいことは、なるべく文字にして印刷して持っていく/忘れず聞けるようにしている
治療履歴ノートを持参し、医師から言われたことをメモするようにしている
家族がいる方には同席をしてもらうことで聞き間違いを防ぐことができる
自分の考えをあらかじめまとめている
ハキハキと手短に要件を伝える
治療履歴を記録し、目の状態の変化を把握する。そして、抗VEGF抗体の投与間隔を考える。
早期・中期・後期の治療計画と治療目標の達成
さらに、短~長期的な治療計画と治療目標の達成度合いについて考えてみましょう。
短期(投与開始~6か月)
治療を受けることが決まっている場合
治療目標(ご自身の生活で大切なことと目の状態の維持・改善)に向けて、医師と相談しながら、現実的な治療計画を立ててみましょう。全ての治療選択肢を聞き、ご自身の治療目標に合う選択なのか考えてみるのも大切です。
治療の概要(治療方法、通院頻度など)を確認し、生活や仕事への影響も確認してみましょう。
気を付けておくべき副作用や、その初期症状も確認し、対処法や緊急連絡先を聞いておくことも大切です。
『新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン』1)では、禁煙、食生活の改善、サプリメント摂取も治療に含んでいます。どの治療を行うと目標達成により近づくのか、情報を集めて判断し、医師にも相談してみましょう。
症状悪化につながる生活習慣などは、医師に確認しましょう。生活上の工夫などは、ミルエルやほかの患者の方々からの情報を参考にするのもお勧めです。
中期(6か月~1年)、長期(1年~)
6か月、1年と、区切りのよい治療期間で治療目標(ご自身の生活で大切なことと目の状態の維持・改善)の達成度合いを確認してみましょう。
短期の治療目標が達成できている場合
経過は順調だと考えられます。同じ治療が継続される可能性が高まり、治療目標もさらなる目の状態の維持・改善へステップアップできるかもしれません。
短期の治療目標が達成できなかった場合
医師と一緒に治療全般の見直しをしてみましょう。目の状態の維持・改善度合いによっては、薬剤を変更する可能性があります。薬剤変更の場合は、治療方法や通院頻度、副作用も合わせて確認しましょう。必要に応じて補助具の活用なども検討されます。
【まとめ】「自分らしい生活の維持」に向けて
治療目標の根本は、「自分らしい生活の維持」にあります。そのために何ができるか、どのような治療が良いのか、医師と考えていくことで、行動も変わってきます。
また、治療に関わる医師にもご自身の希望を伝えることで、医師が治療を考え直す機会になることもあります。
本記事でまとめた患者さんの体験談を、ご自身の治療目標の設定にお役立ていただけますと幸いです。
- 日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ: 新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン. 日眼会誌. 2024; 128(9): 680-698.
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