加齢黄斑変性とともに自分らしく生きるために~医師と患者が創る新しい意思決定「SDM」~Vol.3 共同意思決定(SDM)につなげる 具体的・実践的なコミュニケーション方法

これまで、患者さんと医師で共同意思決定(SDM)を行うための準備について、ご自身の理解と目標設定に注目して紹介してきました(Vol.1 自分に合った加齢黄斑変性治療を考えるVol.2 患者体験談をヒントに、治療目標を考えてみよう参照)。準備が整ったら、次は医師とのやり取りが重要になります。

Vol.3では、アンケートにご協力いただいた方の中から、加齢黄斑変性の患者として長年医師とコミュニケーションを重ねてきたAさん、Eさんのお二人にインタビューし、具体的・実践的なコミュニケーション方法について伺いました。また、インタビュー内容やこれまでの記事をもとに、SDMにつなげるコミュニケーションの一例をご紹介します。

Aさん
加齢黄斑変性を発症してから10年以上が経過。80歳を超えても、現役で社会貢献活動等を行っています。

Eさん
加齢黄斑変性を発症してから8年が経過。患者会の代表として、情報収集や会報誌の制作・発行等を行っています。

診察前の準備

信頼できる情報源で勉強・予習

患者さんの経験から得られる情報は、とても貴重です。また、各種機関(国や地方自治体、医療機関、眼科関連の学会)からも、加齢黄斑変性の情報を得ることができます。Aさん、Eさんともに、オンライン勉強会等を活用されていました。

【Aさん】
● 患者会や医療機関が主催する勉強会への参加(オンラインを含む)

【Eさん】
● 患者会のオンライン交流会を主催
● 会報誌を発行(会報誌を作るために勉強)
●LINEグループで患者会の方々とつながる

自分の状態を整理する

Vol.1 自分に合った加齢黄斑変性治療を考えるのおさらいにもなりますが、ご自身の状態を整理することは重要です。ここでの「状態」は目の状態だけではなく、以下のようなことも含みます。

● 加齢黄斑変性という病気、およびその治療への理解
● 現在の治療とその経過(生活に変化があったかどうか)
● ご自身の生活・希望・好みは何か、それができているかどうか

聞きたいこと・伝えたいことを整理する

Aさんは、医師に聞きたいこと、伝えたいことをあらかじめパソコンで文書にまとめて印刷し、診察時に持参していました。その文書は医師に渡さず、自分で読み上げていたそうです。

【聞きたいことの例】
● 患者会で得た情報をそのまま医師に聞いてみる
例:治療直後にお酒を飲んでも大丈夫ですか?

【伝えたいことの例】
● 治療後の効果・症状の変化・副作用(大まかに書き記しておく)

「質問したいことを忘れない」「あれを聞いておけばよかった、と後悔しない」という考えで行っていたそうですが、文書読み上げの効果は大きく、聞き逃しが減ったそうです。

検査画像をもらって整理しておく

Eさんは検査画像をファイリングして、目の状態を整理していました。

「写真で治療の経過を追えるようにして、自らが納得できるようにしています。画像の解釈についても、多くの方は医師から簡単な説明を受ければできるようになると思います」
「他の病気で血液検査を受けると、データを手渡されます。それと同じで、『画像をいただきたい』というと、もらえることも多いと思います」

Aさんも検査画像の印刷を医師に頼んで、所持しているそうです。なお、医療機関によっては画像の印刷料金が別途かかる場合もあるため、ご注意ください。

質問リストを作る

Aさんの「文書を印刷したうえで医師の前で読み上げる」方法に似ていますが、質問リストにまとめる方法もあります。

【質問リストの例:治療関連】
●現段階で受けられる治療はいくつありますか?
●ある治療を受けたときの効果、副作用リスク、自己負担額は?
●医療費控除や高額療養費といった各種制度は使えますか?

診察中に言われたことはメモしておく

Eさんは「診察時に、医師に言われたことをメモしている」とのこと。前回の診察のときのメモを、次回の診察の前に確認することで、医師との会話のきっかけ作りにも役立ちそうです。

診察室での上手な話し方

医師に話す内容は、主に「自分の状態」、すなわち治療の効果、副作用、日常生活への影響、希望などになると思われます。ただ、同じ話をするにしても、話し方を工夫することで、より深く理解してもらえることもあります。

明確・簡潔な自己表現:ポイントを絞る

Aさんは、医師と話すときにポイントを絞ることを心がけていらっしゃいました。

「だらだらと質問すると先生も嫌になってしまいますし、焦点が分からなくなってしまいます。私は診察室に入ったら、まず先生に『今日は1つだけ聞きたいのですが』と伝えるようにしています。質問数は、多すぎなければ(2つくらいなら)良いと思います。この方法だと、先生が聞く気になってくれることが多いです」
「たとえ他の質問を思い出したとしても、その診察では質問数を決めた回数に留めています」

理解を深める:疑問は積極的に聞く

Eさんは、心配事や気になることは医師に積極的に聞くことを勧めていました。

「 質問することが、コミュニケーションの第一歩になると考えています。一生懸命に質問をすると、先生もその気持ちを汲んで『助けてあげたい』という気持ちが強まる印象があります。あと、聞かなければ先生も教えることができませんから」

Aさんも、気になることや分からないことは医師に積極的に聞いているそうです。いくつか例を挙げていただきました。

Aさん「私の治療スケジュールは、治療前の検査がありません。それはよいのですか?」 主治医「今の治療ローテーションで効果が出ており、普段の検査でも異常がなく経過しているので、問題はありません」 Aさん「新薬が出たそうですが、どうですかね?」主治医「今使っている薬が使えなくなった時に使いたい。だから今は同じ薬で治療しましょう」

質問を積極的に投げかけることには、大きな意義がありそうです。

付添人の同席:2人以上で先生の話を聞く

Eさんは、診察室で先生の話を聞くとき、2人以上が良いとアドバイスしてくれました。

「ご家族がいらっしゃる方々には、診察時の同席をお勧めします。1人では緊張して心細くなるため、先生の説明にうまく対応できず、質問しづらいことがあります。2人以上であれば、付き添いの方が説明に対し「どういう意味ですか?」などと聞き返すチャンスが広がり、加齢黄斑変性への正しい・深い理解につながります。また、診察後の復習でも、「先生、なんて言ってたっけ?」などと記憶をすり合わせることで、記憶違いや聞き間違いの防止が期待できます」

SDM実践のためのコミュニケーションの流れ

これまでのまとめとして、SDMを実践するためのコミュニケーションを時系列にまとめます。

① 治療法および治療選択肢を知り、検討する

可能であれば、加齢黄斑変性について、理解を深めておきましょう。病気について、知っておきたいポイントや、治療選択肢については、Vol.1 自分に合った加齢黄斑変性治療を考えるを参照ください。ただ、時間は限られますし、得た情報が正しいかどうかはっきりしないかもしれません。そんなときは医師に治療の全体像を聞くのも一つの手です【理解を深める:疑問は積極的に聞く】。

その際、何がはっきりしないのか、という点まで整理できていると、より良いでしょう【聞きたいこと・伝えたいことを整理する】【質問リストを作る】【ポイントを絞る】。特に、「各治療のメリット・デメリットは何ですか?」と聞くと、主治医の経験・意見も含めて聞くことができそうです。

また、医師は、患者さんが病気のことをどれだけ把握しているかによって、説明内容を簡単にしたり難しくしたりしています。より深く知りたい場合は、いろいろな情報を集めて質問し、医師の答えがある程度理解できるようにしておくことをお勧めします。お互いに情報を共有することが、SDMの第一歩です1)

② 検査画像を入手し、時系列で整理して受診時の資料にする

検査画像の入手は、Aさん、Eさんとも実践されていました【検査画像をもらって整理しておく】。受診のたびに検査画像をファイリングするだけで、治療経過が分かるとともに、医師と話すきっかけにもなります。

③ ご自身の生活・希望・好みを伝える

患者さん(と付き添いの方)からは、治療だけではなく、ご自身の生活・希望・好みを伝えましょう。治療を選ぶときの大切なポイントになります。Vol.2 患者体験談をヒントに、治療目標を考えてみようの体験談も参考にしてください。

④ 医師と一緒に、最適な治療選択を考える

情報が出揃ったら、患者さん側と医師が一緒に話し合って治療方針を決めていきます2)

Vol.1 自分に合った加齢黄斑変性治療を考えるや③でご紹介したように、現状の治療・対策と希望・好みとのマッチングが大切です。SDMでは「どの治療が一番マッチするのか」という視点で検討していきます。

基本的に、SDMは医師と患者さん側のどちらが上ということがなく、対等なパートナーとして話し合いを進めます1)。ただ、Aさんは「実際に、患者さんから(治療について)言い出すのは難しい」と指摘します。Eさんも「疑問を積極的に聞く」ことを勧めているので、①に記した「治療の選択肢について医師に聞く・教えてもらう」ことは、SDMの話し合いへの第一歩として始めやすいかもしれません。

⑤ 治療を決め、その意思決定を共有する

治療を選んだ決め手を、患者さんと医師で今一度確認しましょう。

いかがでしたでしょうか? 加齢黄斑変性と付き合っていく生活をより豊かにするために、SDMの手法を少しでも活用いただければ幸いです。

  • 中山健夫, 藤本修平編: 実践シェアード・ディシジョン・メイキング 改題改訂第2版. 東京, 日本医事新報社, 2024, p.26-36, 272-278
  • 内閣府 患者の望みを支える「患者主体の医療」実現のための研究会:患者の望みを支える「患者主体の医療」 実現のための研究会 報告書 ~医療従事者と患者の共有意思決定が成り立つ社会の実現に向けて~(概要版), 2021
    https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_03medical/220831/medical08_0101.pdf

[2025年2月9日アクセス]

無料会員登録をすると
以下の機能をご利用いただけます

  • 通院の記録と調子の記録
  • 質問と回答の閲覧・投稿
  • 体験談の閲覧・投稿

質問・体験談でほかの患者さんと情報交換できる!
登録はかんたん!2ステップ。1分で完了します。

その他の記事

加齢黄斑変性とともに自分らしく生きるために~医師と患者が創る...

加齢黄斑変性とともに自分らしく生きるために~医師と患者が創る...

注射の恐怖を乗り越えるには