加齢黄斑変性とともに自分らしく生きるために~医師と患者が創る新しい意思決定「SDM」~Vol.1自分に合った加齢黄斑変性治療を考える3Step

加齢黄斑変性は、いまだ完治が難しい病気です。長い経過をたどることも多く、治療継続のための患者さん本人や家族の負担が大きいこともあります。しかしながら、近年、治療の選択肢は増えており、病状によってはそれを踏まえて、患者さん自身の希望や価値観に合った治療の内容や頻度を、医師や医療スタッフとともに選べる場合があります。

複数ある治療・ケアのどれを行うか決めるとき、各治療のメリット/デメリット、医師の意見患者さんの希望・生活スタイル・人生観などを考慮して医師と患者が話し合い、患者さんも病気について理解をしたうえで共に治療法を選んでいくことを「共同意思決定(Shared Decision Making; SDM)」と呼びます1-3)

患者さんが医師の助けを借りながら考えや希望や価値観に沿った治療を自ら選ぶことは、納得して治療を受けることや、治療への満足感につながります2,4,5)。一方で、患者さんの考えや希望を医療者に伝えてもらうように引き出すのは難しいという医療者の意見もあります6)

こちらの記事では、考えや希望を医療者に伝えるために、ご自身の考えを整理する3つのStepを紹介しています。ぜひご自身に合った治療法を医師や医療スタッフと一緒に選択する一助としてください。

【Step1】加齢黄斑変性を理解する

ご自身にとってよりよい治療を選択するためには、病気とその治療について正しく理解することが必要です3)。また、医療情報を知ることが、患者さんが病気と向き合ううえでの安心につながるという報告もあります7,8)
加齢黄斑変性について、今一度理解を深めてみましょう。

① 加齢黄斑変性について、知っておきたいポイント

加齢黄斑変性は命にかかわる病気ではありませんが、患者さんの生活の負担が大きい病気です。知っておきたい知識として、以下のようなものがあります。

  • ものを見るために一番重要な、網膜の中央にある「黄斑」と呼ばれる部分に、なんらかの異常が起きている
  • 「新生血管型」と「萎縮型」では治療が異なる
  • 治療の開始が遅れると、日常生活への影響を食い止めることが難しくなる場合もある
  • 治療とともに、症状の出ていないもう片方の目の発症を予防することが大切

関連記事:加齢黄斑変性(AMD)とはどんな病気?. 加齢黄斑変性との向き合い方~治療の目標について~, 加齢黄斑変性は「治療」と「予防」の両輪で心が楽になる

② 加齢黄斑変性に対する治療について、ご存じですか?

治療の概要や選択肢、メリット/デメリットを知っておくことで、納得できる治療に近づきます。新生血管型加齢黄斑変性の治療選択肢は、大きく分けて下記のようなものがあります。
また、治療の方法だけでなく、「どのくらいの頻度で治療するか」でも得られる効果は違ってきます。

治療選択肢 考慮したいポイント
無治療 ・不可逆的な視力低下を容易に引き起こす9)
禁煙 ・修正可能な危険因子である9)
・喫煙習慣により後期加齢黄斑変性の発症が4倍に増加する報告がある9)
・早期~末期の加齢黄斑変性治療で推奨される9)
食生活の改善 ・飽和脂肪酸もしくは一価不飽和脂肪酸の摂取を控え、魚や果物、野菜を多く摂取する食生活により加齢黄斑変性未発症から発症のリスク、もしくは中期から後期への進行リスクが減少する可能性がある9)
・早期~末期の加齢黄斑変性治療で推奨される9)
サプリメント摂取 ・抗酸化ビタミン,βカロテン,亜鉛のサプリメントの摂取により後期加齢黄斑変性への進行が抑制できたという報告がある9)
・中期~末期の加齢黄斑変性治療で推奨される9)
抗VEGF薬 ・新生血管型加齢黄斑変性に対する第一選択9)
・国内で使用可能な薬剤については、いずれの薬剤も視力の改善が示された9)
・眼内炎症はすべての薬剤でみられるが,ブロルシズマブ投与後には網膜血管炎および網膜血管閉塞を含む眼内炎症が多いという報告がある9)
・治療における「導入期」では、1か月ごとに1回、通常連続3回(薬剤によっては4回)の投与を行う9)
・必要とされる医療費の単価と治療頻度の双方が相対的に高い10)
・後期~末期の加齢黄斑変性治療で推奨される9)
光線力学的療法(PDT) ・抗VEGF薬の併用が推奨されている9)
・ポリープ状脈絡膜血管症に対する治療選択肢のひとつである9)
・適応となる対象が限られる9)
・PDT治療には眼科PDT認定医の取得が必要とされる9)ため、実施施設が限られる
・後期~末期の加齢黄斑変性治療で推奨される9)
レーザー光凝固 ・適応となる対象で病気の進行の抑制が期待できる9)
・適応となる対象が限られる9)
・後期~末期の加齢黄斑変性治療で推奨される9)

萎縮型加齢黄斑変性には現時点で有効な治療法がなく、生活習慣の改善をしながら経過観察します11)

③ 加齢黄斑変性に対する支援について、ご存じですか?

  • 加齢黄斑変性治療の負担を軽くするための制度(身体障害者手帳、高額療養費制度、医療費控除制度)を利用することで、自己負担を軽減できる場合がある
  • 加齢黄斑変性の治療(手術、注射)が民間保険の給付金対象となるケースもわずかながらあるので、加入の保険会社に問い合わせるとよい

関連記事:加齢黄斑変性治療の負担を軽くするための制度, 加齢黄斑変性で民間保険の給付金が受け取れるケースとは?

【Step2】現在の治療について

ここからは、ご自身のことを分析していきます。加齢黄斑変性の治療(Step1)を理解したうえでご自身の治療の現状をまとめると、治療面での問題点が浮き彫りになります。
また、Step2と3では、メモを取ることをお勧めします。メモを取る作業は煩わしく感じられるかもしれませんが、実はいろいろな効用があると考えられています12,13)

  • ・ テーマに基づいて自由に書くことによって、内面が引き出される効果がある
  • ・ 感情を書きつづることによって、健康面にも良い影響が期待できる
  • ・ 医師や周囲の人と話し合う時に質問しやすくなる
  • ・ 書くことが自己の再構築、自己肯定感をもたらす(がん患者さんを対象にした報告)

手で書くことが難しい場合は、スマートフォンで音声入力するのでもよいでしょう。

① 加齢黄斑変性に対する治療の“今”をまとめてみましょう14)

治療前であれば現状、治療を受けている場合は目や身体の変化についても、自由に書いてみてください。

  • 身体面:目の調子、身体の調子について
    (今の見え方、症状がない反対側の目の状態、治療している場合は効果・副作用を含めて)
  • 精神面:こころの状態について(つらい状態かどうか、心配ごとがあるか)
  • 社会面:人間関係、仕事について
    (社会から孤立している、症状のせいで仕事ができないなど、大変な状況にあるか)
  • 生活面:ご家族(構成や関係性について)、生活環境(お住まいなどの困りごとについて)、家庭内の役割(サポートが必要かどうか)などについて
  • 経済面:お金の問題について(治療費・生活費などで心配ごとはないか)
  • 治療に望んでいること:視力の維持・症状改善の有無、薬剤の投与方法、通院回数など

参考資料:国立がん研究センター がん情報サービス:用語集 QOL.
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/quality_of_life.html
[2025年2月5日アクセス]

【Step3】治療と生活の上での希望や好みを考える1,3,13,15,16)

次に、ご自身の治療と生活の上での希望・好みをまとめていきます。実現するかどうかは意識せず、以下の内容を自由に書いてみてください。思い当たらないときは家族や友人に聞いてみると、ご自身では気づかないことが出てくるかもしれません。

治療と生活の上での希望や好みを考える

ご自身のことを分析・理解したうえで治療や希望・好みについて話す(自己開示する)と、主治医や周囲の人々との関係性がさらに良くなり、サポートを得られる期待も高まります。

① 生活を送る中で、目が悪くて困っていること・心配ごと・できていないことはありますか?

まとめておくと、医師に伝えるときに役立ちます。ここ1週間ほどの期間中に起きたことを回想すると、書きやすいかもしれません。

例)

  • ちょっとした段差でつまずいてしまう
  • 駅・バス停などにある時刻表・運賃表が見にくい
  • スマートフォンに届くメッセージが読みにくい、メッセージを入力しにくい
  • 賞味期限の判読や包丁の使用、調理時の軽量などが難しい
  • 洗濯物の汚れや部屋のホコリが見えない

② 困っていること・心配ごと・できていないことについて何か対策をしていますか?

①で書かれた内容について、今行っている対策を具体的に書いてみてください。対策がない、対策を講じてもうまくいかない場合、そのままにするよりは相談することをお勧めします。

例)

  • ちょっとした段差でつまずいてしまう→家の廊下にものを置かない

③ 楽しくて続けていきたいこと、これからしたいことは何ですか?

希望や好みにつながる質問です。こちらも医師に伝えると、「そういうことをしたいなら、この治療が良いかもしれない」などと、検討材料にしてくれることがあります。

例)

  • 仕事
  • ボランティア活動
  • 家族や友人とのコミュニケーション
  • スポーツ観戦、旅行、読書といった趣味

④ 今の目の状態で、③で挙げたことが満足いくレベルで続けられそう/始めることができそうですか?

  • 続けられている/始めることができそう
  • 続けられていない/何とか始められそう
  • 何とかできているが、もっと楽しみたい/始めることができなさそう
    (これらの選択肢以外でも構いません)

「続けられていない/何とか始められそう」、「もっと楽しみたい/始めることができなさそう」な場合は、さらに良い治療や対策がないか、医師や周囲の人と話してみてください。

最後に、

⑤ 治療決定について

  • 治療法の決定:自分も参加したいと強く思うか、医師に任せたいか

いかがでしたか?気づきがありましたでしょうか?
「楽しいことを続けられる」、「できていないことをできるようにする」を目指すことが、希望・好みに合った治療、ひいては納得のいく治療につながります。

【おわりに】状況整理・自己理解の先にある、納得いく治療へ

Step1~3で、加齢黄斑変性のこと、およびご自身のやり続けたいこと・したいこと(希望・価値観・目標)が少しでもみえてきたでしょうか?
特に、現状の治療・対策と希望・好みとのマッチングが大切です。もしギャップがあるなら、そのギャップを埋めるために、より多くの知識・知恵をもつ方々(医師や看護師、医療コーディネーター、患者会などでのピアサポート)に話を聞いてみると、より良い治療・対策がみつかるかもしれません。各ステップの内容をメモにまとめておけば、治療への疑問点や希望が既に整理されていますから、医師との対話もテンポよく進められるでしょう13)
「でも、お医者さんにどう話しかければいいのか…」と悩まれる方に向け提唱されている、投げかけやすい3つの質問をご紹介します17,18)

治療と生活の上での希望や好みを考える

このような質問を起点に主治医と話し合うことが、患者さんと医師との共同意思決定(Shared Decision Making;SDM)になります1,17)

本記事での状況整理・自己理解が、納得感して治療に取り組まれるきっかけになれば幸いです。

  • 内閣府 患者の望みを支える「患者主体の医療」実現のための研究会:患者の望みを支える「患者主体の医療」 実現のための研究会 報告書 ~医療従事者と患者の共有意思決定が成り立つ社会の実現に向けて~(概要版), 2021 https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_03medical/220831/medical08_0101.pdf [2025年7月16日アクセス]
  • NHS. Personalised Care Shared Decision Making Summary guide. 2019. https://www.england.nhs.uk/wp-content/uploads/2019/01/shared-decision-making-summary-guide-v1.pdf [2025年7月16日アクセス]
  • 中山健夫, 藤本修平編: 実践シェアード・ディシジョン・メイキング 改題改訂第2版. 東京, 日本医事新報社, 2024, p.26-36, 272-278
  • 石川ひろの. 医療と社会 2020; 30(1): 77-89
  • Shay LA, Lafata JE. Med Decis Making 2015; 35(1): 114-131
  • 東京保険局:令和5年度医療情報の理解促進に関する研究会 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/shiryo1_3 [2025年7月16日アクセス]
  • Petrie KJ, et al. BMJ 2007; 334(7589): 352
  • Fareed A. J Adv Nurs 1996; 23(2): 272-279
  • 日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ. 日眼会誌 2024; 128(9): 680-698
  • 厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業
    「成人眼科検診による眼科疾患の重症化予防効果及び医療経済学的評価のための研究」
    令和 2 年度 総括研究報告書 分担研究報告書 「加齢黄斑変性に関する成人眼科検診の費用対効果」https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/download_pdf/2020/202009019A.pdf[2025年7月16日アクセス]
  • 髙橋寛二ほか. 日眼会誌 2012; 116(12): 1150-1155
  • 門林道子ほか. 保健医療社会学論集 2017; 28(1): 44-55
  • 患者中心の意思決定支援 納得して決めるためのケア(中山和弘, 岩本貴編). 東京, 中央法規, 2012, p.28-36, 176-179
  • 国立がん研究センター がん情報サービス:用語集 QOL. https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/quality_of_life.html [2025年7月16日アクセス]
  • 世界血友病連盟(WFH):SDM. https://sdm.wfh.org/ja/welcome-ja/ [2025年7月16日アクセス]
  • 沼田茜ほか. 群馬保健学研究 2023; 44: 11-20
  • NHS: Ask 3 questions. https://aqua.nhs.uk/wp-content/uploads/2024/03/Ask-3-Questions-Updated.pdf [2025年7月16日アクセス]
  • 厚生労働省. がん検診Shared Decision Making(SDM) 運用マニュアル 2022 年度版.2023年(令和5年)3月1日. https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001132582.pdf [2025年7月16日アクセス]

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